kinsen
 
トップページ レイアウト・モジュール 車両紹介リンク
思い出の書籍 ふと思うこと 趣味の思い出 そのほか


レイアウトの夜景に思うこと
 だいぶ前の事なのですがUCCさんのブログにレイアウトの夜景の考察があり、とても興味深く拝見しました。

 私の方は予算と手間と何より技術力の問題でなかなか思う様に夜景には挑戦できないのですが、これまでの経験や観察などを基にして自分なりに考察した事を描こうと思います。
 「いつかは夜景の映えるレイアウトを作りたい」という思いもありますし。
 本来ならばすぐにも書きたかった事ですが色々考えている内にだいぶ間が開いてしまいました。しかも未熟な内容になるかと思いますが御笑覧ねがいます。


 私の現住地は田舎な上に世帯数が少ないこともあって周囲に人工の灯り(街灯すらろくにありません)が比較的少ないところです。そのせいで先般の計画停電の折でもあまり停電前と変わらない暗さだったのですが(笑)
 ただ、そのせいか(条件によっては)都市部に比べると月や星の灯りが意外と明るい事を認識しやすい環境ともいえます。

 「他人おそろし闇夜は怖い、親と月夜はいつも良い」確か柳田國男の随筆か何かの一節だったと思いますが、月明かりや星明りなどの中にくっきりと浮かび上がる山の稜線や建物の輪郭は一種独特な夜景の魅力をかもしていると思います。
 特に月の明かりは空気の澄んだ満月の夜などでは周囲の輪郭をはっきりと浮かび上がらせるため陰影のはっきりした一幅の絵のような綺麗さを見せる事があります。

 実景の夜景を見る時にもうひとつ見逃せない要素として「人間の目の絞り、イコライジング効果」があります。
 いきなり夜道に出た時などに最初は真っ暗に見えても徐々に周囲の輪郭が浮かび上がって見えてくるというあれです。

 この二つの写真は真夜中の11時半頃にほぼ同じ場所を片方は5秒間、片方は15秒間のスローシャッターで捕らえたものです。
 流石に右の様に見えるというのはないでしょうが、一見闇夜の様でも周囲の輪郭は人の目でそれなりに捉えることはできるし、意外に良いムードで見える事があるともいえます。



 これにごく近い実景写真として思い出すのが石川賢治の「月光浴」です。
 月の光だけを光源に使い長時間露出でさまざまな風景を捉えた写真集ですが周囲に他の灯りがないのにかかわらず非常に美しい夜景が演出されています。

 言い換えれば「灯りのないシーナリィでもやりようによっては魅力的な夜景が作れるのではないか」という事を最近感じまていす。


 夜景を語る上で私がかねて着目しているのは昭和30年代〜50年代にかけての特撮映画のミニチュアセットの夜景です。

 「ゴジラ」「モスラ」等を始めとして円谷英二が特撮を担当した怪獣・SF映画には夜間の都市破壊のシーンが多いのですがそれらを通して見ている内にある事に気付きました。
 それらの作品の大半が「建物の室内の灯りのないシチュエーション」を選んでいる事です。例えば「ゴジラ」や「妖星ゴラス」の東京水没シーン、「海底軍艦」の丸の内壊滅シーンなどは市民の退避した後の街灯以外の灯りのない設定ですし「モスラ」の渋谷駅周辺は直前にモスラが送電線を切断して停電した状況、「サンダ対ガイラ」に至っては灯りのある所を襲う怪獣の習性に従って灯火管制を敷いていると、「作り手が意識して灯りのあるシチュエーションを避けている」節があります。

 最初は電飾の手間を惜しんでいるのかとも思ったのですが、後の昭和ガメラや84年のゴジラでは建物に灯りの入ったミニチュアセットが出て来るのを観ていてミニチュアの出来はそれほど変わらないと思われるのに夜景が魅力的に見えない事を感じた事から「これは作り手の意識的な演出だったのではないか」と思えて来ました。

 つまり「室内照明だけで魅力的な夜景を構築するのは意外に難しいのではないか」と言う事です。
 ミニチュアの室内灯はどうしても嘘っぽさが強調されてしまう事に作り手が気づいていた証左ではないでしょうか。
(後の平成ガメラの2で「市民退避後の真っ暗な街でガメラが戦う」シチュエーションが復活していますが他の夜景よりもかなりリアル且つ絵になる画面が頻出していました)

 但し、これが逆効果だったケースもあります。「日本沈没」の東京大震災のシーンでは建物の灯りが殆ど無い画面でビルや高速道路の崩壊を描いていましたが、ライティングのせいか何がなんだかわからない画面や妙に寂寥感の漂う光景が目立ちました。
 ですので都市部の場合は適度な室内灯や街灯が必要である事も申し添えておきたいと思います。

 建物のライトアップは最近の建造物でも良く取り入れられている物ですが、当時の特撮映画ではサーチライトや炎の照り返しなどでそれに近い効果をかなり使っている様です。昔の建物は特にそうですが壁面の凹凸が多く陰影がはっきり出やすい建物等は一方向からのライトアップでかなり陰影を強調されたリアルな雰囲気になります。

 街灯でも同じような効果が狙えそうな気もしますが、基本的に下を照らすための灯りなのでライトアップ効果は限定的と思われます。
(昔のウルトラマンのテレスドンやバルタン星人のスチルを参照)

 その観点から見て特撮ミニチュア映画で個人的にですが魅力的な夜景(作品の出来不出来とは無関係に「レイアウトに使えそうな夜景」と言う観点でのものです)と思えたのは昭和39年の「三大怪獣地球最大の決戦」という作品に出てくる横浜の夜景でした。
 この作品のシチュエーションは他の作品とは異なり「ゴジラが突発的に出現する」シチュエーションだった為灯火管制や停電と言った設定が使えず、建物の灯りの多いシチュエーションを取り入れざるを得なかったものです。
 
 ですので室内灯や街灯が多い場面設定なのですが、この作品では場面の状況を「月夜」に設定する事で上からの光を効果的に取り入れ、周囲の地形や建物のシルエットを演出しやすくしていました。
 この事に私が気付いたのは最近ですが、これの他にもサンダ対ガイラ、フランケンシュタインなどでは夜景の中で意識的に空が微妙に明るく見える様な演出を取り入れている事がわかります。
(東宝ではありませんが「ガメラ対ギャオス」では「照明弾を使って夜空を明るくしている」と言う設定で同様の効果を得ています)

 そこで再び以前触れた伝説のレイアウトビルダー・John AllenのGD Lineというレイアウトの話になります。
 このレイアウトの写真には魅力的な夜景の物が多いのですが、ここでも室内灯や街灯が補助的な扱いとなっています。

 後から種明かしをされて知りましたがこれらの夜景はその大半が撮影用のブラックライトを主な光源に使っており灯りのある建物でもその輪郭がはっきりわかる様な照明効果を使っているとの事です。
 John Allen氏は商業フォトグラファーが本職だったそうですが、これを見る限りでは夜景の演出について上記の特撮スタッフと同じ認識で画作りをしていたらしいと思われます。


 これまで旅行や帰省のたびに沿線の夜景を眺めたりビデオに収めたりしてチェックするのですが、よほどのビル街(例えば東京の丸の内)でもない限り室内灯だけで明るい夜景と言うのは殆ど見掛けません。

 夜景を魅力的に見せる上では街灯やライトアップ、マンションやアパートの通路の照明等の「裸の灯り」が大きな要素を占めています。

 余談ですがこれまで夜景を見ていて気付いたのは同じ街でも「南から北」を眺めるより「北から南」を眺めた方が夜景がきれいに見える傾向があります。
 南向きの壁面には窓が多いのですが夜間は大抵の窓にカーテンが下りているので明るくない事が多いのに対し建物の北側(特にアパートやマンション)は通路がある事が多いために裸照明が目立ちやすい事が関係していると思われます。

 同じ理屈で言うなら通りに面した所が明るいのは街灯の他、家々の門燈も大いに影響しています。


 そしてもうひとつ、夜景の中でとりわけ魅力的なのは「夜間の工事現場」です。
 その理由は工事用の大型照明が周囲の建物に対するライトアップの効果を持つために建物の陰影を強調しやすい事が挙げられると思います。
(この種の深夜工事は年度末になると住宅地でも結構見かけます)
 そこまでは行かないにしても都市部の町並みは通りのライトなどの効果で建物の壁面が浮かび上がりやすい傾向はあると思います。


 レイアウトに試験的に照明を組み込んでみた映像です。ビルの窓が全部光っている等の粗はありますがご勘弁を。

 以前の事ですがクリスマス用のLEDを購入した時にレイアウトに組み込んで写真を撮影した時に手持ちのゴジラの人形を組み合わせてみた事があります。
 その時は建物内部に照明を組み込む事が出来ず道路やゴジラの足元に照明を配置する形で対応したのですが、撮ってみたら予想以上にリアルさを感じる写真が撮れて驚きました。
 この経験からレイアウトの夜景は室内照明はあくまで補助的に使い、メインはライトアップと上からの照明を組み合わせた効果の方が大きいのではないかと考え始めたのが今回の考察のきっかけでもあった訳です。
 撮影地はモジュールですが、線路配置の完結しているレイアウトよりもジオラマ的な性格が強いのでこうした撮影にはうってつけでした。



 照明はクリスマス用のLEDを使っているのでやや光が強すぎるのですが、LEDの特性で光の直進性が強いのでサーチライト風の使い方が効果的です。

 下からの光を中心に試してみたのですがソフビ人形でありながら予想以上の巨大感と凄味を感じさせる画になったと思います。又、意外な効果としてはもうひとつ、下からの光が背景画に反射して夜空の様な雰囲気の空に見えた事です。
 これは前にもふれたGD Lineの写真や前述の「月光浴」の風景写真と同様の効果でした。



 ゴジラの足元の蒸気機関車にも下からの光を当てていますがメリハリのある車体構造なのでこちらも中々いい雰囲気になりました。


 同じ事は建物についてもいえる様で壁面の凹凸の多い建物には効果的に感じました。

 但し、これらの効果はあくまでも部屋の灯りを任意に暗くできる個人、またはクラブなどのレイアウトにのみ有効なものです。以前モジュールに照明を組み込んでショッピングセンターの運転会に持ち込んだ時には周りが明るすぎて一部を除いて照明効果は殆どありませんでした(涙)  

inserted by FC2 system